別役実「うらよみ演劇用語辞典」

ひさしぶりに冴えてて一気に読めました。これぞ別役。

  • 「演出家」の項より

 実は彼等がやっていることは、彼等自身知らないのだ、と言った方が正確であろう。余りに合理主義的に整えられてしまったシステムの中では、こうしたわけのわからない存在が、逆に必要になってくるのであり、そうした「とめどもなく怪しい奴」は「とめどもなく怪しい」ままに放っておくのが、我々の智恵に違いない。(…)
 有能な役者と、無能な演出家と、無能な劇作家の組み合わせでは、芝居は出来ない。有能な劇作家と、無能な役者と、無能な演出家の組み合わせでも、芝居は出来ない。しかし、有能な演出家と、無能な役者と、無能な劇作家の組み合わせなら、何とか芝居になるのである。何度も言うように、どうしてそうなのかはよくわからないが、こうした現実はあるのであり、このあたりに演出家の、芝居への関わり方が隠されているのかもしれない。